なぜ宗教法人の「売買」が増えているのか

宗教法人の売買が増えている3つの理由

宗教法人の売買というと通常の株式会社のm&aと比較してニュースにならないことも多くあまりピンと来ない方が多いと思いますが、実際に近年になりその数は増加しています。

 

宗教法人の市場規模は国内で約7兆円程度であり、これはドラッグストアの市場規模と並ぶ非常にインパクトのある数字です。

登録されている”宗教団体”の数は約225,000程度であり、この中で法人格を取得している数は180,000。国内にはこれだけの数の宗教法人があるのですね。

 

さて、なぜ近年になって宗教法人を売る、買うといった取引が活発化しているのか。今回はその理由を解説していきたいと思います。

 

売り手側の事情 ー宗教法人の後継者不足問題ー

宗教法人の売買に関して最も大きな影響を及ぼしているのは、売却しようと考える方の事情、つまり、後継者不足という深刻な問題です。

 

国内では若者の宗教離れが叫ばれて久しいですが、実際に信仰心の薄れからお寺や神社に纏わる行事は減少傾向にあり、また檀家離れ、葬儀の簡略化、異業種からのビジネスへの参入など宗教法人のファンクションは年々減少しています。

 

これにより経営難に陥るお寺/神社が増えているというのが現実であり、収益面で非常に厳しい状況にあり今後の見通しも明るくない中、本来法人格を継ぐ対象である息子や娘がそれを拒否する、もしくは親の方が引き継がせないという判断をするというケースが増えてきているのです。

 

また、そもそも論として少子高齢化による後継者の絶対的な数の減少もここに追い討ちをかけており、宗教法人の親族内での事業継承は一筋縄でいかない現実があります。

 

これは、その他多くの斜陽産業で起きている、中小企業の後継者不足と全く同じ構造です。

 

“宗教法人”とは言え、税制面での多少の優遇を除き基本的には自由競争に晒されているサービス業なので、市場自体がシュリンクしていく中で経営難に陥る法人が増えていくのは当然のことなのかもしれません。

 

現在、すでに住職不在の空き寺は1万から2万に登ると言われており、住職の43%は年収が300万円以下であるというデータもあります。

 

「坊主丸儲け」の時代は終焉し、宗教法人の経営が非常に難しい舵取りを迫られているということが、売り手側の「売却したい」背景となっているんですね。

 

買い手側の事情 ー宗教法人取得に関わる様々なメリットー

 

宗教法人の採算が厳しいという話をしましたが、一方でそれを買いたいと考えている人が増加しているのも事実です。

では、なぜ買い手の方はこのような逆風に晒されている法人を取得しようと考えているのでしょうか。

 

売り手側の事情が採算面、後継者不足など似たような背景が多いことに比較すると、実は買い手側の意図は多岐にわたります。代表的なものを見ていきましょう。

 

税制面での優遇

一つに代表的なものとして挙げられるのは、税制面でのメリットでしょう。

宗教活動(お布施や寄付、お守りなど)で得られた収益が全て非課税になることはよく知られていますが、宗教活動以外に認められた様々な収益事業(物販、不動産など35種類)に関しても株式会社より税率が35%安くなります。

 

通常の株式会社とは違う税率を求めて宗教法人を取得しようと考える買い手は多いのです。
(関連記事 → ”宗教法人の税金”よくある疑問を一挙に解説

 

ただし、注意しないといけないのは宗教法人方第六条により、収益事業はあくまで「宗教法人の目的に反しない」範囲内で行わないといけないと規定されていることです。

税制面での優遇は宗教法人としての活動の範囲内に限定されるのです。

 

宗教法人を取得し、その箱だけを用いて投資用ワンルームマンションの営業を通常の株式会社よりも35%低い税率で行おう、というようなことは許されません。

 

お寺/神社を用いた新規事業

お寺/神社を用いた新たなビジネスを考える買い手も増えてきています。

 

近年、ヨガや瞑想といった”精神を整える”活動が若者を中心ににわかにブームになってきており、お寺や神社を生かしてそのような場を設ける試みが加速しています。

 

また、webお賽銭坊主バーなど、従来のスタイルに囚われないサービスを展開するパターンも増えており、宗教と社会との接点をより柔軟に捉え直す流れが存在しているのです。

(参考:東京・四谷坊主バーより)

 

古き良き信仰のスタイルが薄れていったとしても、「人々が心の拠り所をどこかに求めている」という事実は変わりません。

より現代に適した、新たな宗教の形を求めて、先鋭的なアイデアと共に宗教法人の買収に乗り出す人たちが増えているのです。

 

宗教法人設立のハードル

宗教法人を買おうと考える人が一定数存在することには間接的な理由もあります。それは、宗教法人を新規で設立することが困難であるということです。

 

株式会社であれば会社の方針を決め資本金を用意し法務局へ登記申請書を出をことにより数週間で設立が可能ですが、宗教法人はそのようにはいきません。

宗教団体として3年以上にわたる実績がないと宗教法人として認められることはなく、またしっかりとした礼拝施設多数の信者など法人格を取得するにあたってのハードルは非常に高いのです。

 

宗教法人を保有したいと考えている買い手が新規で宗教法人を立ち上げることは現実的に非常に困難であり、結果的に買収という形で実現することとなります。

これが、宗教法人の売買が発生しやすい隠れた背景なのです。

 

宗教法人の売買は、意外にハードルが高くないという事実

宗教法人には本山に属している「包括法人」と本山に属していない「単立法人」とがあり、この二つで売買による継承の難しさが大きく変わります。

 

包括法人の場合、本山の規定により宗派の宗教者しか代表者に就任できないということになっています。宗教者でない一般の方が包括法人のオーナーになることはできないのです。

 

一方で、単立法人の場合はこの限りではありません。

単立法人の場合、法人の定める規則にしたがって代表者を選出することができるので、宗教者である必要がないと明記されていれば一般の方でも簡単にオーナーになれるのです。

 

例え単立法人の定める規則に「代表者が宗教者である必要がある」と記載されていたとしても、一般の方への売却の意向があれば規則を変更すれば良い話なので、実務上の手続きは難しくありません。

 

包括法人→売買することが困難
単立法人→簡単に売買をすることが可能

 

単立法人における、禅譲(売却)の手続きの簡易さは、宗教法人における売買の活発さを支える第三の要因となっています。

 

終わりに

今回は、宗教法人の売買が増えている理由について解説しました。

宗教法人を手放したいと考えている方、宗教法人を購入したいと考えている方の参考になれば幸いです。